「広告も展示会もやっているのに、商談が数だけ増えて大型受注につながらない」——B2B・SaaS 営業でよく聞く悩みです。そこで注目されるのが ABM(アカウントベースドマーケティング) です。結論から言うと、ABM とは、成約価値の高いターゲット企業を先に絞り込み、その1社ごとに営業とマーケティングが一体となって個別最適化した働きかけを行う戦略です。読みは「エービーエム」。不特定多数を広く集める発想の逆で、1社を1つの市場とみなして攻めるのが本質です。
この記事では、ABM の意味、通常のリード獲得との違い、進め方の5ステップ、TAS・MEDDICとの使い分け、そして SaaS 営業での具体例を解説します(フレームワーク全体の地図は営業フレームワーク大全を参照)。
ABM(アカウントベースドマーケティング)とは?
ABM は「狙う企業を先に決めてから働きかける」逆転の発想の戦略です。 通常のリードジェネレーションが「広く集めて、その中から良い見込み客を絞り込む」(ファネルを上から下へ)流れなのに対し、ABM は「先に狙う企業を決め、その企業の中の関係者に個別に働きかける」(ファネルを下から作る)流れをとります。
なぜこの発想が生まれたのか。B2B・SaaS では、受注の価値が企業によって大きく異なり、しかも1社の意思決定に複数の関係者が関わるからです。全員に同じメッセージを配る効率追求より、「この1社に効く提案を、関係者ごとに届ける」ほうが、大型案件では効くのです。売り手にとっての含意はシンプルで、母数ではなく、狙った1社の中でどれだけ関係を作れたかで進捗を測る——ここが出発点になります。
ABMとリードジェネレーションは何が違う?
両者は優劣ではなく、狙う案件の性質による使い分けです。 単価が低く数で稼ぐ商材は従来型のリード獲得が向き、単価が高く関係者が多い商材は ABM が向きます。
| 観点 | 通常のリードジェネレーション | ABM |
|---|---|---|
| 起点 | 広く集めてから絞る | 狙う企業を先に決める |
| 単位 | リード(個人)の数 | アカウント(企業)の攻略度 |
| メッセージ | 共通・量産型 | 企業・関係者ごとに個別最適化 |
| 営業とマーケ | 分業しがち | 同じターゲットで一体運用 |
| 向く商材 | 低単価・多数 | 高単価・複雑・複数関与者 |
とくに重要なのが最後の行です。ABM が成立する条件は「営業とマーケが同じターゲットリストを見て動く」こと。ここが揃わないと、マーケが集めた企業と営業が追う企業がズレ、ABM は看板倒れになります。
ABMの進め方——5つのステップ
ABM は「絞る→知る→設計する→届ける→測る」の順で回します。 順に見ていきます。
1. ターゲット企業を絞る(Identify)
理想の顧客像(ICP:Ideal Customer Profile)を定義し、受注価値・実現可能性の高い企業を数社〜数十社に絞ります。ここで広げすぎると個別最適化が効かなくなるため、「少なすぎるかも」と感じるくらいが適量です。
2. 関係者と課題を知る(Insight)
狙った企業ごとに、意思決定に関わる人物(決裁者・推進者・利用部門・情シスなど)と、その企業固有の課題を調べます。ここで TAS の関係者マップの考え方が効きます。
3. 個別メッセージを設計する(Plan)
企業ごと・関係者ごとに、刺さる切り口を設計します。経営層には投資対効果、現場には運用負荷の軽減、情シスにはセキュリティ、というように同じ製品でも相手のジョブに合わせて語り分ける(ジョブ理論の考え方)。
4. 営業とマーケで届ける(Engage)
広告・メール・イベント・インサイドセールス・商談を、同じターゲットに対して連携して当てます。マーケが温めた関係者に営業が接触する、という受け渡しが噛み合うことが肝心です。
5. アカウント単位で測る(Measure)
リード数ではなく、狙った企業ごとの関係構築の深さと、案件の前進で測ります。何人の関係者と接触できたか、決裁プロセスのどこまで進んだか、が指標になります。
具体例:SaaS企業がABMで大型アカウントを攻略する
抽象的なので、ある SaaS 企業が ABM で1社を攻める例で見ます(数値はすべて説明用の仮の値です)。
この SaaS のペインは明確です。Web 広告で月に大量の資料請求は来るが、席数の多い大型契約に届かず、単価の小さい契約ばかりで LTV が伸びない——SaaS 営業で頻出の詰まりどころです。そこで、従来の「広く集める」を一部やめ、受注価値の高い 20 社に絞って ABM に切り替えたとします。
| ステップ | この例での動き(仮の値) |
|---|---|
| 絞る | 従業員 1,000 名超・営業組織が大きい 20 社を選定。1 社あたり想定 200 席規模 |
| 知る | 各社の決裁者(営業担当役員)・推進者(現場マネージャー)・情シスを特定 |
| 設計する | 役員には席あたり単価と投資対効果、現場には入力・運用負荷の軽減、情シスには権限・監査を訴求 |
| 届ける | マーケが役員向けにセミナー案内、インサイドが現場に接触、営業が個別デモへ |
| 測る | 20 社それぞれで「関係者の接触率」「稟議の到達段階」を追う |
ここで効果が出やすいのは、「資料請求◯件」ではなく「20 社中、決裁者に会えたのが◯社」で進捗を見える化した点です。母数を追っていた頃は見えなかった「決裁者に一度も会えていない重要アカウント」が浮かび上がり、そこに営業とマーケの資源を集中できます。1 社の受注が 200 席規模なら、数社の前進が数百件の低単価契約に匹敵する——これが ABM の経済性です。
注意点もあります。ABM は少数を深く攻めるため、1社あたりの初動が重く、成果が出るまで時間がかかります。だからこそ、狙う企業の選定(ステップ1)と、関係者のどこが空いているか(ステップ2)の精度が、投資対効果を左右します。
ABMとTAS・MEDDICはどう組み合わせる?
ABM は単独の手法というより、他のフレームワークと層を分けて重ねると強くなります。
| 型 | 役割 | ABMとの関係 |
|---|---|---|
| ABM | どの企業を狙い、営業とマーケでどう個別最適化するか | 全社の「的の絞り方」 |
| TAS | 絞った企業をどう攻略するか(関係者マップ) | ABMの中の「攻略の実行」 |
| MEDDIC | 案件の中身(決裁者・意思決定基準)が押さえられているか | 攻略の「品質チェック」 |
流れとしては、ABM で狙う企業を絞り、TAS で関係者を構造化して攻略し、MEDDIC で案件の中身を確認する——という重ね方が実務的です。3つは競合せず、レイヤーが違います。
ABMを形骸化させないコツ
ABM は「重要そうな企業リスト」を作って満足すると、ただの営業先リストで終わります。避けるコツは2つです。
- 営業とマーケで同じリストを運用する:別々のターゲットを追っていないか、定例で突き合わせる。ズレていたら ABM は成立しない
- アカウントごとに「空白」を次アクションに変える:関係者マップで未接触の重要人物を洗い出し、放置しない。空白の放置が大型案件を静かに失注させる
IntelligentSales はABMのアカウント攻略をどう支援するか
ABM で狙う重要アカウントは数が少ないぶん、一つひとつの商談の質が受注を左右します。しかし、各アカウントで「決裁者に会えているか」「意思決定基準を押さえられているか」「競合や関係者の力学はどうか」を客観的に把握し続けるのは、担当者の記憶や勘に依存しがちです。
弊社(株式会社 DeploAI)が開発する「IntelligentSales」は、営業フレームワークから抽出・体系化したあるべき営業の理想形(=理想から逆算するバックキャスト)を基準に、6 つの専門 AI(セールスフレーム分析/心理・行動変容分析/競合分析/折衝力学/顧客特性診断/評価アクション)が商談を分析します。とくにセールスフレーム分析 AI が決裁者・意思決定基準の充足度を、競合分析 AI と折衝力学 AI が競合状況と関係者の力学を捉え、「重要アカウントの関係者マップのどこが空いているか」「次に誰に何をすべきか」を提案します。少数精鋭のアカウント攻略を、組織で再現できる形にするのが狙いです。
まとめ
- ABM(アカウントベースドマーケティング)とは、成約価値の高い企業を先に絞り、その1社ごとに営業とマーケが一体で個別最適化して攻める戦略
- 通常のリード獲得が「広く集めて絞る」のに対し、ABM は先に狙う企業を決めて働きかける逆の流れ。母数ではなくアカウントの攻略度で測る
- 進め方は絞る→知る→設計する→届ける→測るの5ステップ。成立条件は「営業とマーケが同じターゲットで動く」こと
- TAS・MEDDIC とは層が違い、併用できる。ABM で的を絞り、TAS で攻略し、MEDDIC で中身を確認する
- 形骸化を防ぐ鍵は、同じリストを営業とマーケで運用することと、アカウントの空白を必ず次アクションに変えること
IntelligentSales の機能の詳細は機能ページを、導入のご相談は資料請求・無料デモ相談からどうぞ。関連記事:Target Account Selling(TAS)とは/MEDDICとは/ジョブ理論(JTBD)とは/営業フレームワーク大全。